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    無効審判段階における「請求項の更なる限定」の理解と適用


    2020/3/23|文章

     2017年4月1日から施行されている改正後の『専利審査指南』では、無効審判段階における請求項の補正方式に関する規定が、改正前の『専利審査指南』と比べて大きく変化している。その中で追加された最も重要な補正方式が①「請求項の更なる限定」と、②「明らかな誤りの修正」の二つである。

     最新の改正後『専利審査指南』の前は、特許権者が明らかな誤りを修正することが復審委員会に許可されていなかったものの、復審委員会も裁判所も、特許権者が条件を満たす明らかな誤りに対して修正的な解釈を行うことは許可していたので(例えば、第21570号無効審判請求審査決定、(2013)中知行初字第1096号行政判決、(2014)高行終字第1811号行政判決、最高人民法院(2011)行提書第13号行政判決など)、請求項における明らかな誤りは、特許権者にとって取り返しのつかない重大なミスではなかった。

    最新の改正後『専利審査指南』の前は、請求項に対し行うことのできる限定は、請求項の合併のみであり、合併式の補正の最大の問題は、請求項の保護範囲が著しく不当に縮小され、最終的に特許権者がその発明創造に対して望んでいる有効な保護が得られなくなる可能性があることであった。

     最新の改正後『専利審査指南』では、「請求項の更なる限定」が「保護範囲を縮小するために、他の請求項に記載の1つまたは複数の技術的特徴を補足すること」であると定義された。これは、「請求項の更なる限定」という補正方式を採用する場合、特許権者は請求項に存在する欠陥に対して、その欠陥を解消できる1つまたは複数の技術的特徴を補足するだけでよく、他の不要な技術的特徴を加える必要がないことを意味する。

     これによれば、請求項は合理的な最も広い保護範囲を保持することができ、特許権者もその発明創造に対して強力な保護を行使できるようになるため、「明らかな誤りの修正」と比較して、無効審判段階での「請求項の更なる限定」は、特許権者にとってより重要な意義を持つ。

     しかし、最新の改正後『専利審査指南』が施行されてから数ヶ月が経ち、「請求項の更なる限定」をどのように理解し適用するか、実務において大きな議論を引き起こしている。特許権者はどのような「請求項の更なる限定」が許可されるものであるかが分からず、合議体の審査官も、いったいどのような「請求項の更なる限定」が受け入れられるべきものであるか頭を悩ませている。

     最近、ある著者が一つの観点を提出した※1。即ち、「請求項の更なる限定」は、「補正すべき請求項の中に、原特許請求の範囲における他の請求項の1つまたは複数の技術的特徴を補い入れることによって、元の請求項の代わりに、保護範囲のより狭い新たな請求項を形成し、元の請求項は残さない。補正後の請求項の数は、原特許請求の範囲から想定を超えて変化しない。かつ、通常、請求項を増やしたり書き直したりして、新たな請求項の階層体系を構築することはできない」と解釈すべきである、というものであり、更に、「請求項の更なる限定」の要求を満たさない3つのケースも詳細に挙げている。このような観点は、現行の『専利審査指南』に規定されている内容を超えているように思われる。

     まずは、『専利審査指南』の無効手続きのうち、請求項の補正に関する具体的な規定を見ていきたい。

    『専利審査指南』の第4部分第3章第4.6.1節には、無効審判段階における特許権又は実用新案権の書類に対する補正は、請求の範囲のみに限られると規定されており、以下のことが原則とされている。

    1原請求項の主題名称を変更してはならない。

    2.登録された請求の範囲と比較して、元の専利権の保護範囲を拡大してはならない。

    3.原明細書及び請求の範囲に記載された範囲を超えてはならない。

    4.通常、登録された請求の範囲に含まれていない技術的特徴を追加してはならない。

     『専利審査指南』の第4部分第3章第4.6.1節では、無効審判段階における請求項の補正方式が、「上述の補正原則を満たす前提で、請求の範囲を補正する具体的な方式は、一般的に請求項の削除、技術案の削除、請求項の更なる限定、明らかな誤りの修正に限られる」と規定され、さらに「請求項の更なる限定とは、請求項に他の請求項に記載された1つ又は複数の技術的特徴を補充して、保護範囲を縮小することをいう」と定義されている。

     『専利審査指南』における「請求項の更なる限定」の定義と比べて、上述の「『請求項の更なる限定』の適用に対する解釈」は、「補正後の請求項の数は、原特許請求の範囲から想定を超えて変化しない。」、「かつ、通常、請求項を増やしたり書き直したりして、新たな請求項の階層体系を構築することはできない。」という二つの制限的な規定が追加されている。

     第一に、この二つの制限的な規定は『専利審査指南』の関連規定を完全に超えており、法的根拠がない。

    第二に、この二つの制限的な規定はそれ自体の意味が曖昧であり、実務の中で実行可能性がない。「補正後の請求項の数は、原特許請求の範囲から想定を超えて変化しない。」における想定とは、誰の想定のことを言うのか?審査官、公衆、特許権者、無効審判請求人等、立場によって、補正後の請求項数の変化の想定は異なる可能性がある。個別の案件についても、請求の範囲の作成タイプは様々であり、補正後の請求項の数量変化の想定も千差万別である。「通常、請求項を増やしたり書き直したりして、新たな請求項の階層体系を構築することはできない。」について、どのような補正が、請求項を増やすことに該当するのか?どのような補正が、請求項の書き直しに該当するのか?請求項の階層体系とは何なのか?また、新たな請求項の階層体系とは何なのか?請求項の階層体系はどのように区切られるのか?当然ながら、審査官、公衆、特許権者、無効審判請求人で、これらの問題に対する理解および回答が全く異なる可能性がある。実務においては、審査官にとっても、特許権者にとっても、無効請求人にとっても、2つの制限的な規定の尺度を正確に理解し把握することは非常に困難である。

     この2つの制限的な規定を理解しやすくするために、著者は、「請求項の更なる限定」の要件に適合しない3つのケースを詳細に挙げている。

    1、独立請求項を補正していない状況で、新たな従属請求項のみを追加する。

    2、同一の独立請求項にそれぞれ異なる技術的特徴を加え、複数の新たな独立請求項を形成する。

    3、原請求項の特徴に対して改めて組み合わせを行い、1組または複数組の新たな請求項を追加する。

     第1と第3のケースについては、「保護範囲の縮小」という要求が反映されておらず、請求項の更なる限定に属さないため、何ら問題となることはない。しかし、第2のケースを、「請求の範囲を書き直して、請求項の新たな保護体系を構築することは、社会公衆の補正に対する想定に合致しない」に当てはめるという観点については、議論すべきである。

     実務において、特許権者が、無効審判段階で請求項に対し前記第2のケースで補正を行うのは、概ね、以下の2つの理由による。

    一、原請求項が引例に対して特許性を有しない状況下で、特許権者が、同一の独立請求項にそれぞれ異なる技術的特徴を加えて形成された異なる技術案が特許性を有しているか否かについて確信がなく、同時に、保護範囲を適切に縮小することも望んでいない。

    二、原請求項が引例に対して特許性を有しない状況下で、特許権者が、同一の独立請求項にそれぞれ異なる技術的特徴を加えて形成した異なる技術案が、引例に対していずれも特許性を有すると考えている。

     同一の独立請求項にそれぞれ異なる技術的特徴を加えて、複数の新たな独立請求項を形成し、これらの新たな独立請求項の主題名称は変わらず、ただ原独立請求項にある技術的特徴を加えて、原独立請求項より保護範囲を縮小したというだけの場合、請求項の書き直しと見なすことができないことは明らかであり、新たな請求項保護体系の構築でないことは言うまでもない。補正後の請求項に対する想定については、改正後『専利審査指南』における「請求項の更なる限定」の定義に基づいて行われる想定でなければならない。言い換えれば、社会公衆は、改正後『専利審査指南』の「特許請求の更なる限定」の定義に基づいて、特許権者が請求項に対して前記第2のケースの補正方式を採用する可能性があることを十分に予見することができる。

     無効審判段階において、請求項に対して前記第2のケースで補正を行う場合として、概ね以下の3つの状況が考えられる。

    一、同一の独立請求項に、同一の請求項グループの異なる従属請求項の技術的特徴をそれぞれ加え、複数の新独立請求項を形成する。

    二、同一の独立請求項に、別の請求項グループの異なる技術的特徴をそれぞれ加え、複数の新独立請求項を形成する。

    三、同一の独立請求項に、同一の請求項グループの異なる従属請求項と、別の請求項グループの異なる技術的特徴をそれぞれ加え、複数の新独立請求項を形成する。

    これら3つの状況が許容されるか否かの鍵は、やはり補正後の独立請求項で限定された技術案が、無効審判段階での請求項の補正原則(1.原請求項の主題名称を変更してはならない。2.登録された請求の範囲と比較して、元の専利権の保護範囲を拡大してはならない。3.原明細書及び請求の範囲に記載された範囲を超えてはならない。4.通常、登録された請求の範囲に含まれていない技術的特徴を追加してはならない。)に適合しているか否かにある。これらの原則に適合しているのであれば、上記の全ての状況は、予測可能であり且つ許可されるべきものである。

     無効審判段階において、前記第2のケースの補正を許可すると、確かに、補正後の請求項の項数が登録請求項よりも著しく増加する可能性があるが、このような請求項の項数の増加はどのような結果をもたらすのだろうか。

     まず、補正後の請求項の項数の増加は、合議体審査官の業務量を多かれ少なかれ増加させることは間違いない。案件によっては途方もない量の増加となることもある。但し、同一の独立請求項に別々に加えられた異なる技術的特徴は、既に登録された請求の範囲に含まれているため、業務量が増加するといっても多くは重複しており、かつ予測可能なものである。このような仕事量の増加に対し、復審委員会は、このような案件を審理する審査官の作業係数を適切に上げることを考慮することもできるし、特許権者に対して請求項の項数増加費用の追納を要求することも考えられる。但し、請求項に係る現行の庁費用は、出願を提出した当初の請求項の数に基づいて計算されているため、請求項の項数増加費用の追納については、専利出願の庁費用に関する規定を改正する必要がある可能性がある。

     無効請求人にとって、同一の独立請求項に別々に加えられた異なる技術的特徴は、既に登録された請求の範囲に含まれているため、補正後の請求項に対して余計な追加調査を行う必要はほとんどない。

     社会公衆にとって、新たな独立請求項に限定された技術案は、特許権者のイノベーションの成果に属し、かつ既に授権文書に公示されているものであり、社会公衆は特許権者がこれらの技術案に対して保護を得る見通しを事前に備えているため、不当に社会公衆の利益を損なうこともない。

     特許権者にとって、他の、特許制度の確立が早く且つ比較的完備されている国と比べて、授権後の補正ルートと機会が明らかに少ないという状況下において、前記の第2のケースが許容されることは、特許が無効とされるリスクを軽減し、発明創造における異なる発明点を単独で有効に保護することができ、且つイノベーション開拓への積極性を高めることができる。

    また、登録された請求の範囲における従属請求項の各特徴、特に同じ組の請求項における従属請求項の各特徴の法的地位は同一であり、無効審判段階において請求項を補正する際に、それらは平等に扱われなければならない。『専利審査指南』の無効審判段階における請求項補正の原則と方式を満たすことを前提に、特許権者は、自由にどれか又はどれらかの特徴を選択して、単独又は別々に独立請求項に加え、独立請求項をさらに限定することができる。

    最後に、『専利審査指南』が無効審判段階における請求項の補正方式について改正を行った当初の趣旨に戻る。改正以前の『専利審査指南』は、無効審判段階における請求項の補正方式に対する制限が非常に厳格であり、特許権者が相応の合理的な補正を行うことができずに、特許権が無効とされるリスクに直面する可能性を招いていた。特に、多くの出願書類が相対的に高品質ではないという中国の現状において、この問題はより顕著であり、真の意味での発明創造の保護には不利であり、国内出願人のイノベーションに対する積極性を大きく損なうことになるため、無効審判段階における請求項の補正方式の制限を適切に緩和しようということになったのである。してみると、上述の「請求項の更なる限定」に対する限定的な解釈又は規定は、『専利審査指南』改正に至った当初の趣旨に明らかに反するものである。

    以上のことをまとめると、最新の改正後『専利審査指南』は、無効審判段階における請求項補正の原則と方式について既に明確に規定しており、これらの規定は、意味が明確で分かり易く、実行可能性が強く、かつ特許権者と社会公衆の利益の平衡を保つことができる。このような状況下において、無効審判段階おける請求項の補正の原則と方式、特に「請求項の更なる限定」に対して、制限的な解釈又は規定を追加することは好ましくない。さもなければ、特許権者の合法的な利益が害され、社会公衆の発明創造に対する積極性を低下させ、社会全体の科学技術の進歩を阻害することになる。

     

    :(※1)劉銘、劉洋、『「請求項の更なる限定」についてどう理解し、適用するか?』」、2017年11月7日「中国知識産権報」